渋谷のある博多ラーメン店で替え玉をした。
替え玉とは、ラーメンを食べた残りのスープに新たに麺だけ入れてもらうという麺のおかわりのようなシステムだ。 替え玉がくると、麺にスープがしみわたるよう箸でヒタヒタとするのがコツで。 紅ショウガや薬味などを足すと、ほらまた新しいラーメンの出来上がり! 考え出したヤツと握手がしたいくらいである。 最近では多くても2、3回しか替え玉をしなくなった僕だが、学生の頃は一杯のラーメンで体重が変わるくらい替え玉をしたものだ。 高校の帰り道に「豚龍軒」というラーメン屋があった。 この店は、替え玉を10回すれば全て無料になるというシステムなのだ。 しかし10回…。 最初のラーメンを合わせれば11杯食べなければならない。 食べきれれば無料だが、食べきれなければ払う金額もでかくなる。 ギャンブルである。 部活(バスケ部)が終わったある日、僕は仲間2人と当時噂の「豚龍軒」に向かった。 その3人の表情は昼飯を食べに行くいつもの顔ではなく、まるで道場破りのようにキッとしていた。 そう、挑戦に行ったのである。 「バスケのシュートは入らないが、有田のラーメン情報は間違いない!」 そう言われる程僕のラーメン好きは有名で、自信もあった。 「はい、ラーメンお待ち〜」 僕の前にラーメンが置かれた。 ここからはアマチュアの人には見えなかっただろう。 いつの間にかコショウが3回ふられ、僕の箸がラーメンをつかんで。 「替え玉!」そう言った後には半分くらい麺がなくなっていた。 麺がゆであがるのが10秒くらい、それ以外のタイムを合わせると20秒くらい。 それと他の客が注文するタイミングも予測して「替え玉!」と叫ぶのがプロである。 ハイペースな最初の3杯くらいまでは、来た瞬間に「替え玉!」と言う。 これもプロである。 「替え玉!」「替え玉!」「替え玉!」「替え玉!」ぼくら3人の小気味よい替え玉コールが続いた。 そう、大切なのは、間をあけずに食べ続けることなんだ。 わんこそばもびっくりである。 ある程度時間が過ぎた。 「有田バカ、水は飲むな!」 「有田、タマゴもそろそろ食っとかんといかんぜ」 「がんばれ有田!」「がんばれ有田!」 早々に挫折した仲間2人に挟まれ、黙々とラーメンを食べ続ける僕がいた。 「有田、ペースが落ちてきたぞ!」 「紅ショウガ入れる?」 うるさ〜い!! そう叫びたいが、そんな余裕もなっくなっていた。 8杯目に達したとき限界を感じた。 しかし、今の僕からラーメンをとったら何も残らない気がしたんだ。 そして力をふり絞って。 「カエダ・マ…」 プロである。 「ハイ、おまち〜!」 「有田しっかりしろ!」 「噛むな!流し込め〜」 僕のほっぺは欲張りなハムスターのように膨らみ、口からは麺がはみ出していた。 気を失ったつもりはないが、全てがスローモーションでその後の記憶はない。 間違いないのは、2日間何も食べれなかったということと、「おしい!替え玉9回。有田君」と書かれて、青ざめた顔でピースしているポラロイド写真が豚龍軒に貼られたことだった。 こういうことがあるとラーメンを嫌いになったりするものだが、僕はやっぱりラーメンが好きなままだった。 だけど、あれから無茶な替え玉はしなくなった。 そう、一つの戦いが少年を大人にさせたのだ。 ラーメンはおいしいが一番! 最後に、僕が初めて「替え玉」と出会った時のことを話そう。 僕がまだ小学生だった頃だった。 町内会の何かのイベントの後、夜も遅くなったということでみんなで(たぶん20人くらい)ラーメン屋に入ったんだ。 子供達はめったにない状況にはしゃぎ、大人達は楽しそうにビールを飲んでいた。 僕が大好きなラーメンを食べ終わった頃。 誰かが「替え玉!」と言った。 初めて聞く言葉だった。 オレも「替え玉!」、僕も「替え玉!」、私も「替え玉!」、「替え玉!」…。 そうするとどうだろう、みんなのどんぶりに次々と麺が入れられてゆくではないか。 おおー、僕も勇気を出して言った。 「替え玉!」 しかしみんなが僕を見て大笑いするんだ。 なぜなら僕は、スープをを全部飲んでしまっていたんだ。 スープがなきゃ替え玉は出来ないよね。 僕は泣きそうな気持ちになった。 しかしその時、店のおばちゃんがつかつかとやって来て、僕のおわんにスープを足して麺を入れてくれたんだ。 「あー、ずるー!」「こすーい!」仲間たちののブーイングの中。 おいしくて、うれしかったー。 僕の好きなラーメンは、究極のラーメンとかではなく。 「それが晩ご飯!」みたいなきっと大衆的なラーメンなんだろう。 「替え玉!」 今日も誰かが言っている。
by ak_essay
| 2006-09-11 15:58
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