16時の地下鉄はガラガラで、7人掛けのシートの端に座った僕は本を読んでいた。
進む電車は、幾つ目かの駅でその女性を乗せた。 向かいのシートに座った女性は、とてもきれいな人だった。 きれいと言うか、かわいいと言うか、『魅力的』という言葉が適切かもしれない。 本(なぜかビジネス書)を読んでいた僕は、思わずじーっと見てしまった。 地下鉄はやがて地上に出て、直通運転を始めた。 外は夕立だった。 バラバラと風のように強弱を作って打ち付ける夕立の中を、電車は西へと走ってゆく。 車内はいぜんガラガラだった。 本を読んでいるはずの僕だったが、時々彼女を見てしまう。 蛍光灯ではなく自然の明かりの中の彼女は、さらに魅力的だった。 じー… 男女を問わず、魅力的な人っていいよね。 その人の回りはなぜか、花が咲いたような明るい空気になってしまう。 そういう人は、だいたい表情に内からなる笑顔が含まれているように思える。 人の『よい印象』とは、顔立ちも半分はあるが、残りの半分は『笑顔のきれいさ』なのだそうだ。 自分もいつも笑顔でいようと心がけて一日をスタートさせるのだが、、難しい。 なんてったって日々は大変だ。 すぐプンプンしたりしてしまう。 いかんいかん、と思い直して心を落ち着けることは多い。 やがて自分の降りる駅がやって来た。 僕は、彼女に表彰状を送りたいという衝動にかられた。 『あなたはきれい。ありがとう!』そんな、表彰状である。 それをさっと彼女に渡して、「ありがとう」と一言ってすっと降りるのである(変態)。 しかしさすがにそれは無理なので、心の中でありがとう。 そう言った僕は、タタッと電車を降りた。 新しくなった駅の出口で雨宿りをしている。 雨は中降りといった様子。 飲み屋のアルバイターも雨を避けるために同じ軒先でティッシュを配っている。 すこし仲間意識。 雨ですねぇ。困りますねぇ。 水たまりの暴れ具合で計る雨の勢い。 西の空に陽が射してきているけど、まだまだ止みそうにはない。 時間がある時の雨宿りは好きだ。 何か思い出してみようと記憶を辿ってみる。 だけど、今日はなんだかぽーっとしていて何も浮かばない。 近くで同じく雨宿りをしていた人が、もういいやと決断し、もう一つの世界へ飛び出していった。 i-podと携帯電話は濡れないようにポッケの奥にしまおう。 鞄の中にある折り畳み傘は、出さない。 そして僕も、すっと出発。 わーい!雨だ。 そして口角を気持ちばかり上げて、笑顔で歩いてゆこう。 さあ、よい顔になっているかな。 どこで屈んでもそこに世界。 等圧線越えの強風。 やがて風は止み、次の天気がやって来る。 梅雨明けはまだかな。
by ak_essay
| 2010-07-04 21:14
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