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ありけんエッセイ集


有田健太郎のエッセイコーナーです
by ak_essay
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チョークの粉

予定や、やらなければならないことをすぐに書き込まないと、そのうち頭の中に巨大な津波が押し寄せてきて、その洪水が引いてゆくと同時に予定もやらなければならないことも全て持っていかれてしまう。
海の藻くずである。

去年まではメモ紙を使っていたのだけど、パソコン周りがメモ紙だらけになるので、今年はホワイトボード付きのカレンダーを掛けている。
これはいくら書き込んでも、必要なくなるとすぐに消せるから楽だし、見やすくていい。
ボードには、常にやらねばならないことだけが記されているというわけである。

しかし事件は起こった。
ホワイトボード用の専用ペンではなく、うっかり油性マジックで書き込んでしまったのだ。

うう〜、消えない、コシコシしても消えない。



中休みに入るチャイムは、校庭の大きなメタセコイア(スギ科の大木)の間を抜け、晴れ空で霞む平和な町へと拡散していった。

深い深いビリジアン色。
黒板消し二刀流で一生懸命に消しにかかるのだけれど、刻み込まれた45分の軌跡は乳白色に広がるだけで、1度や2度では神秘のビリジアンには近づかない。

ざわめく教室、黒板受けに転がっている折れたチョーク、机や椅子を引く音、机の横にぶら下げられた体操着、、

教壇の向こう、横たわる大きなビリジアンの長方形の右下には、日付と日直『ありた』と書かれてあった。


窓を開けるとクリーム色のカーテンがふくらみ、大きなメタセコイアの向こうには、眩しい昼間が世界へ続いていた。

パン・パン・パン・パン…

「うわっ、ちょっとなんしようとぉ〜」
「こっち入ってきよろうもん!」
「バカやないと!」
「黒板消し機使いーよ!」

小学生社会の女子とは、けっこう怖いものである。

教室の後ろに回った僕は、風向きを確認して再び、

パン・パン・パン・パン…

「うえっ!」
「なんやこれ!」
「きちゃねー」
「ゴホッ、ゴホッ…」

隣のクラスは大騒ぎ。


廊下に出て非常階段に出た僕は、今度こそと辺りをよく確認した。
風向きもよし、人もよし、天気もよし。

大きく息を吸い込んで。

思いっきり叩くその音は、L字型の校舎に短く反射し、エフェクトにくるまれて戻ってきた。

チョークの粉は、光と風を受けて煙のようにゆっくり流れながら空へと広がり始め。
やがて風の本線に乗ったそれらは、風の形に色をつけ、正体を暴いた。

霞む穏やかな空へ拡散してゆく煙を見ながら考える。

このチョークの粉は、やがて少しずつ少しずつ世界に散りばめられるのだ。
ということは、この空気にはほんの少し、ほんの少しだけ僕のチョークが混ざっているのか。


中休み終了5分前。
校舎を反射しまくって、それでも力が余ってしまったチャイムもやっぱり空へ飛び出していった。

想うは神秘のビリジアン。
僕は、粉だらけの手も気にせず再び叩きはじめた。



油断して油性ペン。
キーワードは油である。

潤滑油のクレ556を使って、ようやく真っ白なホワトボードは復活した。

長方形のホワイト。
その右下に日直「有田」と書いてみる。

んん〜、やっぱり黒板じゃないと雰囲気でないな。
それに、毎日が日直じゃないか。


ここには、この一年いろんなことが描かれて、消されてゆくだろう。
一つ一つしっかりこなしてゆけるように頑張らんとね。



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【ゴー、ウエスト】
千葉方面に車で出ていた。
千葉にはポツポツと想い出があり、好きな所だ。
そんな風の強い帰り道、夕暮れは暖かで奇麗。
徐々に浮かび上がってくる大都市は、夜のオープン準備に追われている。


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昼と夜のグラデーションをバックに、巨大なビル達は、赤色灯をゆっくり点滅させ。
街灯やら、マンションの蛍光灯やら、車のライトやら、ネオンやら…。
こんなにたくさん、人が住んでるのか。
世界はやっぱりでっかいな。

でも大丈夫。
一人一人が、それぞれに、世界の中心。
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by ak_essay | 2009-01-20 17:42
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